君と僕のキセキ
それ以来、明李さんとは、キャンパス内で会うと挨拶をしたり、たまに話をしたりするような関係になった。もちろん、きっかけとなった本の感想についても話した。
明李さんはミステリーが好きで、お互いのオススメの本を紹介し合うこともあった。
生協の書籍購買部に行くときは、明李さんに会えることを期待した。
大学では、彼女と話すことが唯一の楽しみだった。
はっきりと、いつからだったかというのは自分でもわからない。
初めて会ったその日からかもしれないし、徐々に坂道を滑り落ちるように緩やかにかもしれない。
気づいたら、僕は彼女に恋をしていた。
容姿端麗な彼女は、ただそこに立っているだけでも、つい視線がいってしまう。実は芸能人だと言われても驚かない。そんな特別なオーラさえも纏っていた。
性格も明るくて、僕みたいな人にも普通に接してくれる。普段は落ち着いているが、本の話になると目を輝かせながら饒舌になる。
まだ彼女のことを深くは知らないが、とても素敵な人だということだけはわかる。
それに比べて僕は、友人と呼べるような人間は片手で数えられる程度、これといった特技もなく、身長が高いわけでもイケメンなわけでもない。典型的なぼっち大学生である。
真面目しか取り柄がない僕には、彼女は高嶺の花すぎる。
会話できるだけでも奇跡なのだ。もちろん告白なんてできるはずがない。
つまり、出会いから現在までの一年半、僕と明李さんの関係は全くと言っていいほど進展がなかった。
もし僕が、そういう気持ちを向けていると知ったら、彼女とは今まで通りに話せなくなってしまうかもしれない。だから、これでいい。
店内をぐるっと一周するが、明李さんらしき姿は見当たらなかった。残念ながら、今日は彼女はいないみたいだ。僕は肩を落とす。文庫の新刊コーナーを一通りチェックしてから、書籍購買部をあとにした。