君と僕のキセキ
授業の始まりを告げるチャイムが鳴っても、由芽はうつむいて微動だにしなかった。
大人からすれば、そんなささいなことで……と思うだろう。しかし、社会に比べたら、高校生の世界はとても狭いのだ。
私は次の休み時間、それまで通り、由芽に話しかけた。不安そうにうつむいている彼女が放っておけなかったのだ。
「私と話してたら、伊澄まで仲間外れにされちゃう」
弱々しい声で由芽は言った。
「大丈夫だって。きっと、またみんなで一緒に遊びに行けるよ」
「……うん、ありがと」
由芽はそう言って、ぎこちなく笑った。今にも泣き出しそうな笑顔に、私まで悲しくなってきた。
由芽にどんな言葉をかけるべきかを考えていると、後ろから肩を叩かれた。
「伊澄、ちょっと……」
私は麻帆に連れられ、女子トイレに向かった。何を言われるのかは大体予想がついていた。
「ねえ、何でアイツのこと無視しないわけ?」
トイレで待ち受けていた愛香に、そう聞かれた。壁に寄りかかって、腕を組んでいる。高圧的な態度。
「由芽だって、悪気があったわけじゃないし、謝ってたじゃん。だから、許してあげてほしい」
睨むような愛香の目を、真っすぐに見返して私は言った。正義の味方を気取っているとか、そんな気は全然なくて、それは私の正直な思いだった。
「わかった。許すよ。はぁ、伊澄は本当に優しいね」
愛香の声が、突然優しいものになる。彼女は麻帆を連れてトイレから出て行った。
こんなに呆気なく仲直りできると思っていなかったので、拍子抜けしてしまった。
私は安堵して教室に戻る。