君と僕のキセキ
昨日はそれ以降、愛香たちと話す機会がなかったために気付かなったが、この時にはすでに、私と由芽の立場は入れ替わっていたのだろう。
私はただ、みんなで仲良くしたかっただけなのに。愛香の目には、私は偽善者に映ったのだ。
気に食わない。彼女がクラスメイトを嫌いになる理由なんて、それだけで十分だったのだ。
すっかり気落ちしてしまった私は、自分の席に座って手持無沙汰にしていた。何も考えずに黒板を見つめていると、由芽が登校してきた。
私は、おそるおそる由芽に近づいて話しかける。
「……由芽、おはよ」
か細い声だったが、聞こえているはずだ。しかし、彼女からの反応はない。
その瞬間、この教室に私の居場所がないことを、痛いほどに思い知った。
二人に無視されていると気付いた時点で、予想はしていたことだった。しかし、実際にそれがわかるとやはり堪(こた)える。
自分を守るためならば、思春期の女子はどこまでも残酷になれるのだ。
由芽は、愛香と麻帆に合流し、喋り始めた。
彼女は、チラッと私の方を見て、すぐに目を反らした。私を見ないようにして、少しでも罪悪感に苛(さいな)まれないようにしているかのようだった。
――伊澄は真面目だよね。
私はよく、そんなことを言われていた。その裏には、堅苦しすぎるという非難のニュアンスがあることも理解している。決していい子ぶっているつもりはない。性格は、なかなか変えられないのだ。
真面目な人間が損をする世界。ずる賢くないとやっていけない。そんなことをよく耳にする。
誠実に、真面目に生きていれば絶対にいいことがある。父は、私が小さい頃に何度もそう言い聞かせた。私はその言葉を信じて今まで生きてきたのだけれど……。そんなことはないのではないかと気づき始めていて。