君と僕のキセキ
私が働き始めてから三十分後、先輩が出勤してきた
「おはようございまーす」
穏やかな少し高めの声。さりげない風を装って、少し離れた場所から挨拶を返す。
「あら、ソウちゃん」
「店長、ソウちゃんは止めてくださいって言ってるじゃないっすか」
「いいじゃない、可愛くて。今日もよろしくね」
店長と先輩の会話を聞きながら、本棚の陰で深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
私は最近、先輩のことを妙に意識してしまうのだ。おそらくこれが、恋というものなのだろう。
余計なことを考えていると仕事に支障が出る。働き始めて二ヶ月が経過し、かなり慣れてきたものの、まだミスをしてしまうことがある。そのたびに店長や先輩が優しくフォローしてくれているが、早いところ心配をかけずに働けるようになりたかった。
なんとかミスなくバイトを終え、帰宅した。
家で湯船につかりながら、今日の不思議な体験を思い返す。果たしてあれは、現実だったのだろうか。全てが私の妄想だという可能性もあるのではないだろうか。
考えてみれば、まるでファンタジーの世界の出来事なのだ。よく落ち着いて会話をしていたなと、我ながら感心する。
明日も公園に行って確かめてみよう。どうせ教室には、一緒に昼食を食べる相手もいないのだから。