君と僕のキセキ
父がしゃがんだ。目線の高さが私と同じになる。
「伊澄も、朝早いのに来てくれてありがとう。いい子にするんだぞ。ママを困らせないようにな」
私の頭に手を置いて、クシャっと、少し乱暴に撫でる。こうして撫でられるのが、私は大好きだった。
「パパ、どっか行っちゃうの?」
私は、父の目をじぃっと見返して聞いた。ここは空港で、父は大きなキャリーケースを持っている。遠くへ旅立ってしまうことは、幼い私の目から見ても明らかだった。それでも質問をしたのは、答えがノーであることを期待していたからかもしれない。
家にいないことが多い代わりに、休みの日にはたくさん遊んでくれた父が、またどこか遠くへ行ってしまう。それは私にとって紛れもなく、世界で一番寂しいことだった。
「ちょっと遠いところへ行ってくる。ちゃんと帰ってくるから、待っててくれるか?」
「うん。待ってる」
父を困らせたくなくて頷いたが、心の中では首を横に振っていた。大好きな父と離れることは嫌だった。
寂しいと思っている本心が、顔に出てしまったのだろう。父は少し困ったように苦笑いした。
「伊澄には、これを渡しておこう」
父がそう言って取り出したのは、小さな白い石だった。全体的に滑らかだが、きっちり対称な形になっているわけでもない。
石の隅の方には小さな穴が空いていた。その穴にリングが通され、チェーンと繋がっている。キーホルダーの形になっている。
父は右手の親指と人差し指で、一番端の大きいリングをつまんでぶら下げた。