君と僕のキセキ
考え事をしていたせいか、少し早歩きになっていたらしく、バイト先には余裕を持って到着した。店長に挨拶をして従業員専用のバックヤードへ入る。
ロッカーから制服を取り出して着用し、店内に出る。「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」を客の出入りに合わせて発しながら、黙々と仕事をした。
雑誌コーナーの客が少なくなった隙に、陳列を整える。立ち読みをするなら、せめて戻す場所くらいはきちんとしてほしい。
店内をモップで掃除し、レジが混んできたらサポートに入る。
バイトを始めてからすでに一年以上が経過しているため、大抵のことは無心でミスなくこなせるようになった。今日も、いつもとさして変わらない日常だった。
することがないときには、バイト仲間と雑談を交わしたりもする。僕は、隣にいる女性に声をかけた。
「寒くなってきたね」
「ですね」
今日、僕と同じ時間にシフトに入っているのは、文月(ふづき)さんという高校生の女の子だ。眼鏡をかけていて、大人しい雰囲気。セミロングの髪を後ろで一つ結びにしている。
真面目な性格のようで、それは勤務態度にも表れていた。しっかりと相手の目を見ながら丁寧な接客をする。彼女がアルバイトを始めたのはつい最近だったが、仕事を覚えるのも早かった。
「この寒さで、お客さんも減ってくれるといいんだけどね」
「あははは、そうですね。このお店が潰れない程度に」
僕のバイト先は、シフトが曜日制になっている。文月さんと僕の入る曜日が被りやすいこともあり、彼女の研修中はよく僕が教育係を担当した。おかげで、仕事以外で接点はないが、こうして冗談を言い合えるくらいの仲になった。