君と僕のキセキ
「んーっと……あ、ここだ。単位をよく見て。ここでモルからリットルへの変換が必要になってくる。で、気体は理想気体だから……」
僕はこうして、ときどき文月さんのプチ家庭教師をする。
「……うわっ、そっか。わかりました。ありがとうございます」
彼女は右手を頭部に添えて、悔しそうに顔を歪めたと思うと、僕の方に向き直って、ぺこりと頭を下げた。
「ん。よかった。また何かあったら遠慮なくどうぞ」
「はい! いつも本当にありがとうございます」
三人兄弟の末っ子として育てられた僕にとって、彼女は可愛い妹のような存在だった。
「そうだ! 頼んでたヤマガクのパンフレットが届いたんですよ」
ヤマガクというのは、僕の通う大和学園大学の略称である。
「へぇ。僕も受験生のときは見てたけど、いざ入学してみると全然見ないな。まあ、高校生向けだから、当然と言えば当然か」
「あ、今日持ってきてるんですけど、見ますか?」
僕の返事を待たずに、文月さんはバッグを開けて探し始める。
「うん。ちょっと見てみたいかな」
何だか嬉しそうな彼女を見ていたら断ることはできなかったし、どんなことが描かれているのか少し興味もあった。
「ありました。これです」
文月さんが取り出したのは、A4サイズの薄い冊子だった。なんとなく見覚えがある。僕が高校生だった二年前とあまり変わっていないのだろう。