君と僕のキセキ
「別に朽名さんのことはそういうんじゃないから!」
決してそういうんじゃなくないのだけど、他人に知られるのが恥ずかしくて、僕は嘘をついた。
「わかりました。必死で弁解してるところが逆に怪しいですけど、一応そういうことにしておいてあげます」
文月さんはお見通しだったかもしれない。彼女は面白がって噂を流すような人じゃないから、大丈夫だとは思うけど。
「じゃあ、もうこのことに関してはノーコメントで」
ふてくされる僕を見て、文月さんはフフッと笑った。
「それじゃ、また」
文月さんは、手袋とマフラーを装着し、再び僕にぺこりと頭を下げると、万全の装備で出て行った。
「うん。気を付けて」
さて、僕も帰るか。背伸びをして立ち上がり、上着を羽織る。
棚を整頓している店長に声をかけ、バイト先から外へ出た。
夜空には三日月が輝いている。真上を見ると、地球は視界から消え去り、宇宙だけが残される。今にも吸い込まれてしまいそうだった。
――伊澄も、同じ空を見ているのだろうか。
ふと、そんなことを思った。