君と僕のキセキ
「じゃあとりあえず、ご飯でも食べながら話そうか」
〈はい〉
「って言っても、僕はもう食べ終わっちゃったんだけどね。あ、ごめん。急がなくて大丈夫だよ」
〈ありがとうございます。宗平(そうへい)さんは、毎日その小屋でお昼を食べているんですか?〉
「うん」友達もいないし、という情報は言わないでおく。「伊澄さんは?」
昨日、伊澄が昼休みに一人で公園で過ごしていることを疑問に思ったのだ。
〈私は、昨日からです。ちょっと、クラスの友人と喧嘩してしまって……教室に居づらいんです〉
彼女は言いづらそうに答えた。以前はきっと、その友達と一緒に昼食を食べていたのだろう。
「それは……大丈夫なの?」
落ち込んでいる様子が声から伝わってくる。そんな状態は、決して大丈夫とは言わない。しかし、あまり人と会話をすることが得意ではない僕には、それくらいしか、かける言葉が思い浮かばなかった。
〈喧嘩といっても、今のところ直接的な危害は受けてないですし、こうして宗平さんとお会いすることもできたので、まあ、結果オーライです〉
僕と出会えたことを暗に嬉しいと評してくれていて。たったそれだけで、僕は幸福感に包まれる。
「そっか。早く、仲直りできるといいね」
喜びを隠して、僕は言った。
「はい。ありがとうございます」
先ほどの彼女から感じた陰鬱な雰囲気は、すでに消えていた。
もちろん、心配でもあった。その友人とは、同じ教室にいれないほど気まずくなってしまっているわけで。今もきっと、無理をしているのだろう。
何か、僕にできることは……。
昨日初めて話したばかりの、声だけで繋がった少女。姿を見たことはなく、住んでいる場所も知らない。そんな彼女が悲しんでいることに対して、見返りを求めることなく、力になりたいと心から思った。それは傲慢だろうか。
しかし、声だけの関係ではどうすることもできないのも事実で。このときの僕は、ただひたすらに無力だった。