君と僕のキセキ
「何、これ」
私は石を両手で受け取った。サイズのわりに、ずっしりとした重みを感じる。
「お守りだよ。大事に持っておきなさい」
「うん、わかった」
当時の私は、お守りがどういったものであるかを十分に理解していなかったけれど、父の醸し出す雰囲気で、それがとても大切にすべきものであることはわかった。
出発の案内をするアナウンスが流れてきた。
「おっと、もう時間か。そろそろ行かなきゃだ」
父は立ち上がって言った。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
母の何とも言えない表情。娘の私でも美しいと感じるその整った顔が、少し歪んで見えた。
「行ってらっしゃい」
私も倣って、父に告げた。
「行って来ます」
私たちに向かってそう言ってから、父は背を向けて、搭乗口に歩いて行った。
それが、私たち家族が交わした最後の会話だった。十年が経った現在も、父はまだ帰って来ない。
思えば、あのとき母は不安をこらえていたのだろう。私より多くの時間を父と一緒に過ごしてきた母が、平気でいられるわけがなかったのだ。悲しさを内側に抑え込み、寂しさを外に決して出さぬように、強い母親を演じていた。他の誰でもなく、私のために。
その後、母の運転で家に帰った。車の中で私はずっと、父に渡された石を見つめていた。
その白い石には、何か不思議な力があるように感じた。
そして十年後――私はとある男の子と出会うことになる。