君と僕のキセキ
沈黙を間に挟みながらも、僕たちはぎこちなく言葉をやり取りした。そうしているうちに、昨日彼女が去って行った時間になる。
〈そろそろ戻ります〉
伊澄が言った。その声に、名残惜しそうな雰囲気を感じ取ったのは、僕の都合のいい思い込みだろうか。
「また明日」
気づくと、自然とそんな台詞が僕の口をついて出ていた。
今日は、この不思議な現象について確かめるという大義名分があった。しかし、それが果たされてしまった今、僕と伊澄がこうして会う理由など、どこにもないのだ。
目的のない約束は、果たして許されるのだろうか。
ところが、そんな僕の心配など吹き飛ばすかのように、
〈はい。それでは、また〉
彼女はすぐにそう答えた。
石から発されていた光がだんだんと弱くなり、やがて消えた。伊澄がベンチから離れた証拠だ。
石を巾着に戻し、丁寧な手つきでバッグの内ポケットにしまうと、僕もパイプ椅子から立ち上がって小屋を出る。
――ちょっと、クラスの友人と喧嘩してしまって……。
もし彼女が、その友人と仲直りをしたら、昼休みに公園に来る理由もなくなってしまうのではないか……。
ほんの一瞬だけ、喧嘩が長引けばいいな、などという最低なことを思ってしまった。そんな自分に嫌悪感を抱きながら、僕は次の授業が行われる教室へ向かった。
こうして、僕と伊澄は再会した。
光る石が、遠く離れた僕たちをつなぎ合わせる。
そんな不思議な現象は夢でも妄想でもなく、たしかに現実だった。