君と僕のキセキ
〈小学一年生のとき、給食で初めてカレーが出たときのことなんだけどね〉
「うん」
〈そのときから私はカレーが好きで、楽しみだったんだけど、いざ食べてみたら……〉
この時点でなんとなく察しはついた。伊澄が笑いそうになっているのがわかる。
〈アサリが入ってなくって、泣き出しちゃって。担任の先生が『どうしたの?』って聞いても、私は『アサリがぁ、アサリがあいっでないいいい』って泣いてて。今思い出すと面白くって〉
伊澄は言い終わると同時に笑い出した。その話が、というよりは、彼女が大笑いしているのがおかしくて、僕も大声で笑った。飲み物を口に含んでいなくてよかった。
「あぁ、面白かった。久しぶりにこんなに笑ったかも」
十秒ほど経って、ようやく発作は収まった。
〈普通のカレーにはアサリが入ってないってことを知ったときは衝撃だったなぁ〉
「昔は可愛かったんだね」
〈ん? 昔は?〉
「や、何でもございません」
僕たちは、趣味に関してはまったくと言っていいほど噛み合わなかった。それでも、伊澄と話していると面白かった。
一人でただ食事をするためだけにあった昼休みが、一番楽しみな時間に変貌を遂げた。
相変わらず大学に友人はいなかったけれど、そんなことは些細な問題に思えた。
伊澄は僕の中で、確実に大切な存在になりつつあった。