君と僕のキセキ

 ある日の会話で、驚くべき事実が発覚した。



〈ねえ、聞いてよ〉

 ある日、伊澄がそんな風に切り出した。

「どうしたの?」



〈今日、進路希望調査票が配られてさ。将来についてよく考えておけって……。しかも大学だけじゃなくて、その先も。そんな未来のことなんてわかんないよ。高校卒業するまで、まだ一年以上もあるのに〉

 高校生らしい悩みを不満げに、そして少し不安げに話す。



「うーん。でも、その通りじゃないかな。大学だって、学部や学科によって全然勉強する内容も違ってくるし」

〈そうなんだけどさ……。私には何もないから。将来が不安になってくるよね〉

「今の時期でそういう風に考えられてるんなら、きっと大丈夫だよ」



〈キミは、大学卒業したらどうするの?〉

「大学院に進もうと思ってる」

 僕がそう答えると、少し間が空いて〈へぇ。すごいじゃん〉と返ってきた。



「大学院が何かわからないから適当に言ってるだろ」

〈あ、バレた?〉

 悪びれる様子もなく、伊澄が笑いながら言った。



「大学とほとんど一緒だよ。勉強する内容がもっと専門的に、難しくなるだけ」

〈なんだ。すごいことには変わりないじゃん。将来の夢とかあるの?〉

「一応、あるけど……。笑わないで聞いてくれる?」



〈うん。笑わないよ〉

 そのことはまだ、誰にも言ったことがなかったけれど、伊澄になら話してもいい。そう思えた。
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