君と僕のキセキ
その日もいつも通り、僕は小屋で、伊澄は公園で昼食を食べながら、石を通して何でもないような会話を繰り広げていた。
今日の話題は、犬派か猫派かという誰もが一度は参加したことがあるような、ありきたりなものだった。
僕は犬の方が好きだったが、彼女は猫の方が好きだという。たしかに猫も可愛いと思うけど、犬の尻尾を振る姿の愛くるしさには敵わない……。
その論争は盛り上がったのち、数分で沈静化する。
コンビニで購入したおにぎりは全て食べ終わっていた。ペットボトルのお茶を飲みながら、言おうと決めていたことを頭で整理する。
誰にも話したことのない僕の想いは、口に出せば儚く消えてしまいそうな気がして。
心臓が速くなる。緊張を少しでも和やわらげようと深呼吸をする。
そして僕は、
「実は……前から好きな人がいるんだ」
緊張しながらも、勇気を出して打ち明けた。
〈どうしたの、いきなり〉
唐突に切り出したせいか、伊澄の声は当惑の色を帯びていた。
自分の恋バナなんて初めてなのだ。許してほしい。
「一年以上片想いしてる人がいて、どうにかしてお近づきになりたいんだけど、どうすればいいかわかんなくって。それで、伊澄に相談に乗ってもらえないかと思ってさ」
自分の気持ちを正直に話す。心がくすぐったいような、そんな感覚。
〈うーん。力になりたいのはやまやまだけど、私も恋愛経験なんてそんなにあるわけじゃないから、有益なアドバイスができるかどうか……〉
「そんなに、ってことは、ちょっとはあるってこと?」
――何だろう。胸にモヤっとしたものを感じた。
〈……まあ、一応ね。それより、今はキミの話でしょ?〉
伊澄が誰と恋愛しようと、僕には関係ないはずなのに。
「ああ、ごめん。僕がその人と知り合ったのは――」
去年の五月、明李さんと知り合ったきっかけについて、思っていた以上に鮮明に覚えていたことに驚きつつ、僕は伊澄に話して聞かせた。