君と僕のキセキ
〈大切なのは心意気でしょ。まだキミは何もしてないじゃない〉
「そんなこと言ったって……。具体的にどうすればいいかわからないし」
他人と恋人になるまでのプロセスなんて、誰も教えてくれないし、その方法に正解などない。
〈んー。じゃあ、まずは食事にでも誘ってみれば?〉
「食事かぁ。思ったよりも正攻法だね。もっとなんか、こう、いつの間にか相手が僕のことを好きになってるみたいな感じの、裏技的な攻略法ってないのかな?」
〈何バカなこと言ってんの。あるわけないでしょ。それにほら、私とキミも、こうして一緒にお昼ご飯食べて絆を深めてきたじゃない〉
「絆を深めたっていうのはちょっと大げさかな。でも、その通りかもね」
〈よし、そうと決まれば早速誘っちゃいなよ〉
「どうやって?」
散々軽口を叩いていた僕だったが、女性の誘い方など何一つとしてわかるはずがなく、恋愛に関する無能ぶりをさらけ出す羽目になる。
〈は? だって、連絡先知ってるんでしょ? 今度ご飯行きましょうって送ればいいだけじゃない。それとも何? メッセージの送り方がわからない? 昔の時代の人間じゃあるまいし、そんなことはないよね?〉
なぜそんな当たり前のことを僕が聞くのか、まったく理解できないといった風に、伊澄はやや早口で捲し立てた。
「あー、連絡先は知ってるんだけど、初めて会ったとき以来やり取りしたことなくって……。突然連絡する度胸なんて、僕にはない」
いっそすがすがしいほどのチキン発言に、彼女は黙ってしまう。
〈……ポンコツ〉
やがて、伊澄がボソッとそう呟いたのが聞こえてきた。否定できない。