君と僕のキセキ
〈あのー、一応聞くけど、向こうには彼氏はいないんだよね?〉
「……僕が知る限りでは、いない……と思う」
そんなこと、考えたこともなかった。どうやら、僕は自分で思っているよりも恋愛偏差値が低いらしい。
〈もしかして、知らないの?〉
「……はい」
まだ社会人として働いたことはないけれど、上司に叱られる部下の気持ちが、今ならわかる気がする。
伊澄は、僕に聞こえるように大げさに嘆息してから言った。
〈ごめん、さっきバカって言ったけど訂正。大バカ〉
姿は見えずとも、彼女の呆れかえった様子が伝わってくる。
〈とりあえず、まずはお昼ご飯でいいんじゃない? 大学なら、食堂とかあるでしょ?〉
「あるけど……」
一人で使うのも気後れして、今まで利用したことがなかった。
〈今まで大学でしかかかわりがなかったのに、いきなりプライベートに踏み込むのもちょっとアレだしね。あくまで、暇なら一緒にお昼食べない? くらいのニュアンスでいくように〉
「わかった。頑張ってみる」
〈そうと決まれば、練習だね〉
「練習⁉」
予想外の展開に、思わず声が大きくなってしまう。
〈ん? 今まで何にもできなかった奥手男子が、意気込みだけで女の子をスマートにご飯に誘えるようになるとでも思ってるの?〉
「……いえ、僕が間違ってました。ご指導よろしくお願いいたします!」
〈よろしい〉
どうやら恋愛に関する話となると、僕は明らかに劣勢でしかいられないようだった。
そんなわけで、僕の明李さんをお昼ご飯に誘う練習、もとい伊澄のスパルタ教育が幕を開けた。