君と僕のキセキ
〈まずは、いつも通りに話せばいいんじゃない? で、ちょっと慣れてきたら、いつもは話さないようなことかな。彼女自身のことをもっと知れるような話題をさりげなく〉
結局、伊澄は助けてくれるようだ。その優しさに感謝しなければ。
「例えば?」
〈なんでもいいんじゃない? 好きな食べ物とか、好きな芸能人とか。友達と会話してるときに自然に出てくる話題を出せばいいと思う〉
「なるほど……」
僕は伊澄の助言を、頭の中のメモ帳に記した。
〈あと重要なのは、その人の恋愛観だよね。まず最低限確認したいのが、現在交際中の恋人はいるのか、恋人候補や意中の人はいるのか〉
伊澄は〝最低限〟という部分に力を込めて言った。
「うっ……すみません」
思わず口から謝罪が飛び出す。
〈それで他は……好きな男性のタイプとか。ああ、あと、告白されてとりあえず付き合ってみるタイプか、それとも好きな人としか付き合わないタイプかってのも知りたいかな。いわゆる恋愛に対する価値観ね〉
「そんなことまで聞き出せる気がしない」
〈あっ、そうだ。好きってことをそれとなくほのめかすのも大事だからね〉
「えっ⁉」
〈本当に少しでいいの。キミなら好き好きオーラだだ漏れになりそうな気もするけどね……。もしかしてこの人、自分のこと好きなんじゃないの……って相手に思わせておくことで、相手もこっちを意識してくれることがあるから〉
「それは……ちょっと無理かな」
そんな高等テクニック、僕には使えそうもない。
〈でしょうね。あと、女の子は褒められるとすごく嬉しくなるの。どんなに小さいことでも。そのネイル綺麗だねとか、今日の靴可愛いねとか。もちろん外見じゃなくてもいいし〉
聞いたことあるような、ないような……。
「僕にできると思う?」
〈…………あー……うん〉なんだ、その間は。〈練習しましょう。友達とかでもいいから、いいところを見つけて褒める練習〉
「誰とも話さない日すらあるくらいには友達いないけど、どうすればいいかな」
〈ま、まぁ、焦らずゆっくり行きましょ。キミのことは応援してるけど、あんまり期待はしてないから〉
グサリ、と僕の心に何かが突き刺さる音がした。