君と僕のキセキ
何を話そうとしていたんだっけ……。僕みたいな、人とコミュニケーションをとることが苦手な人種にとっては、話題を出すだけでも一苦労なのだ。
結局いつも通り、明李さんの方から話を振ってきてくれた。
「ねえ、あれ読んだ?」
目をキラキラさせながら、彼女はある本のタイトルを口にした。
それは、大手出版社が立ち上げたばかりの新レーベルからつい最近発売された文庫だった。読んだことのなかった作家の作品だったが、表紙とあらすじに惹かれて僕も購入していた。
「読みました。すごく面白かったです」
リーダビリティが高く、ページ数が多くないこともあり、買ったその日に読み終えてしまった。
高校生がタイムリープを繰り返す物語で、綺麗な文章によって綴られる主人公の一途な想いが印象的だった。
「やっぱり。時光くんが好きそうだなって思ってた」
「はい。買って正解でした」
僕も、読みながら何度か、明李さんが好きそうな本だな、などと思ったことは秘密だ。
「第一幕ってことだから、シリーズものみたいだね」
情報によれば、続編も出ることが決まっているらしい。
「そうみたいですね。楽しみです」
「私も!」
一点の曇りもない純真無垢な笑顔だった。今この瞬間、明李さんの笑顔は僕だけに向けられているのだと思うと、とても嬉しかった。
かなりいい雰囲気なのではないだろうか。誘うとすれば、このタイミングだ。
僕は覚悟を決めて、口を開いた。
「朽名さん、これからお昼ですか?」
さりげない雑談を装って尋ねる。
「うん、そうだけど」
これでもう、後には引けない。
「あ、あの! ……もしよかったら、一緒に食べませんか?」
昨日の練習の成果を存分に発揮して、僕は明李さんにそう告げた。
頬が熱くなるのを感じる。昼食に誘うだけでこんなになっているんじゃ、先が思いやられる。先なんてあるかどうかわからないけど。