君と僕のキセキ

 目を閉じても心地よい眠気は訪れず、ようやくウトウトしてきたかと思えば受験に失敗する悪夢を見る始末。僕は、眉間にしわを寄せながら定期的に寝返りをうつだけの人形と化していた。



 そしてついに、いつもなら寝ている時間を過ぎても眠れなくなってしまったのである。

 もういっそ起きてしまおう。それで、気分転換に散歩でもしてみようか。薄暗い天井をぼんやり見ながら、そんなことを考えた。



 というわけで、すでに寝ている家族を起こさないように静かに家を出て、僕は近所をさまよっていたのだ。



 残念ながら夜の散歩は、気分転換という名目を満足に果たせてはいなかった。

 しかし、男とはいえ僕は未成年。見た目が老けているわけでもないので、パトロール中のお巡りさんにでも見つかったらまずいかもしれない。



 それに体もいい加減冷えてきた。うん、そろそろ帰ろう。帰って温かいほうじ茶でも飲もう。そうしたら、今度こそ寝よう。大丈夫。明日からまた頑張れば、きっと合格できる。



 自分に言い聞かせつつ、家に戻ろうと踵を返した瞬間、僕の視界に一筋の眩い光が現れた。



 そして、先ほどまで聞こえていたはずの虫たちの鳴き声が止やんだ。

 僕の脳が、視神経以外から入って来る情報を遮断したのだ。



 夜空を真っ二つに切り裂くような、白く光る直線。

 瞳に映る景色に、僕の心は完全に奪われていた。
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