君と僕のキセキ
「時光くん、何にする?」
僕の前に並んでいた明李さんが、振り返って聞いた。ふわりと香るいい匂いにドキッとする。今日、食事を終えるまで、僕の心臓はもつだろうか。
「うーん、実はあまり食堂を使ったことはないんですよ。何かオススメのメニューってないですか?」
特にこれといって食べたいものもなかったため、明李さんとの会話が続くように質問で返してみた。
「あっ、それならハンバーグとかどう?」
思ったよりも早いレスポンス。
「美味しいんですか?」
この大学の食堂における名物的な何かなのだろうか。
「実はね、今日はとんかつを食べようと思ってたんだけど、メニュー見てたらハンバーグも食べたくなっちゃって。だから、私がとんかつを、時光くんがハンバーグを頼んで半分こしない?」
少し恥ずかしそうに首を傾げて言う明李さんは、破壊力が高すぎて。
「します」
僕は即答した。
お互いのおかずを交換する。これはもう、恋人的な距離感ではないか。告白したら成功するのではないか。むしろ両思いなのではないか。そんな調子のいい考えが頭をもたげる。
しかし、思わせぶりな態度を取っておいて、告白してきた男に対し、そんなつもりじゃなかったと、態度を翻して拒絶する小悪魔的な女も多いと聞く。この前、ネットでそんな感じの記事を読んで身震いした。
もちろん、明李さんがそんなことをする人だとは思えない。そもそも、女性に対して免疫が少なく、加えて恋愛経験に乏しい僕にとっては、全てが思わせぶりな態度に見えてしまうのだ。気を付けなければ。
予定通り、僕はハンバーグ定食を、明李さんはとんかつ定食を注文して、空いている席に座った。
片想いしている女性と、テーブルをはさんで向かい合う。初めての経験だった。
緊張感が全身をせわしなく駆け巡っている。食事が喉を通るか心配だった。
「それじゃあ、これ」
明李さんは箸でとんかつを三切れ、僕の皿に移した。
「あ、はい。ありがとうございます」
僕もハンバーグを箸で半分にし、彼女に献上する。
何だこれ。幸せすぎる。僕は明日にでも死ぬのかもしれない……。漫画だったら、ポワーンという効果音が背景に描かれていると思う。