君と僕のキセキ
「ありがとう。でも、僕は明李さんのことを知らなすぎる。この前、話してみてわかった」
こんな僕に、彼女を幸せにする資格などあるのだろうか。
〈知らなかったのなら、これから知っていけばいい。まだ、時間はたくさんあるんだから〉
年下の女の子に慰められてしまった。そんな状況が、自信のなさに拍車をかける。
「伊澄はさ」
〈ん?〉
「今は好きな人とかいないの?」
〈何、突然〉
「僕だけ色々話すのもずるいなぁって思って」
〈キミが勝手に相談してきたんでしょ? そう思うんなら、別にもう話さなくてもいいけど〉
「そうだね。ごめん」
〈……いるよ〉
細くて弱々しい声だった。注意していなければ聞き逃していたかもしれない。
「え?」
〈好きかもしれない人なら〉
「かもしれないって?」
〈バイト先の先輩なんだけど、最近その人のことをよく考えちゃうの。はっきりとはわからないんだけど、たぶん好きってことなんだと思う〉
「やっぱり年上か」
世のカップルには、男が年上というパターンが多い気がする。明李さんより年下の僕は、それだけで不利な気がしてしまう。
〈すごく頼りがいがあって、優しい人なの〉
僕がわかりやすく落ち込んでいるところに、伊澄が畳みかけるように言った。絶対わざとだ。
「……うん。わかった。もうそれ以上言わなくていいよ。っていうか、伊澄、バイトしてたんだね」
〈まあね。社会勉強みたいなもんかな〉
「何のバイトしてるの?」
〈秘密〉
「えー。なんで」
〈それより、また物理がわかんないの。教えて〉
結局、伊澄のバイト先についてははぐらかされて、僕は鉛直上方投射について解説することになった。