君と僕のキセキ
「いいじゃん。見せてよ」
無邪気な声に、私はガードを緩める。ここで私が拒否したら、たぶんそれ以上しつこく見ようとしない。先輩はそういう人だ。
だけど、どうせ完成したらスタッフだけではなく客の目にもさらされるのだ。別に今見せても問題はない。
「……わかりました。少しだけですよ?」
絵を覆っていた腕をどける。長方形の右下と左下にそれぞれ、互いに背を向けた少年と少女が姿を現した。
彼らの指には赤い糸が結ばれており、紙面を一周して繋がっている。まだ見出しや紹介文は書いていないため、真ん中は空白だ。
「うっわ! すげー上手いじゃん。手先器用かよ!」
「ありがとうございます。でも私、絵は元々すごく下手くそだったんですよ。小学校のときに先生に『どうして腰から腕が生えてるの?』って言われるレベルでした」
「あははは。なんだそれ。でもそれならすごい上手くなったってことか」
「はい。絵を描くことは好きだったので、いつの間にか上達してたんです」
「好きこそ物の上手なれ、ってやつね」
「そんな感じです」
好きなものは上達する、という意味のことわざだ。私は、このことわざは正しくないと思う。
私は先輩が好きだけど、先輩とかかわることが上手になれない。むしろ、どんどん強く意識してしまって、接し方は不自然になっていく。
今だって、一つひとつの発言に、過剰なほどに敏感になっている。変な言葉遣いになっていないか。失礼なことは言っていないか。
――先輩を好きな気持ちが、バレていないか。