君と僕のキセキ
もうすぐ、伊澄と出会ってから二ヶ月が経とうとしている。当初に比べると、ずいぶんと打ち解けたものだ。お互いに名前と年齢以外のことを詳しく知らないまま、週の半分以上、昼休みに会話をしているという奇妙な関係ではある。
彼女と話していると安心感があるし、きっと伊澄も僕のことをよく思ってくれている。会話の内容も、お互いの素性を隠しつつではあるが、かなり親しい人同士のそれだと思う。僕の方は、恋愛相談にまで乗ってもらっていた。
誰かに恋愛相談をするなんて、以前は想像もできなかった。しかも、その恋のために、かなり積極的に行動している。伊澄に出会って、僕は変わりつつある。
今でこそ自然に話しているが、改めて考えると本当に不思議な現象だ。
石を通して離れた場所にいる二人が会話をしている。
まるで魔法のような出来事に、最初はずいぶんと悩んだけれど、すでに当たり前のことのように彼女と話している自分がいた。
初めて彼女に出会ったときのことを思い返す。あのときは確か、僕が彼女の鼻歌を聞いて――。
「……ねえ」
悪い予感が、全身を駆け巡った。
〈どうしたの?〉
僕の声がこわばっていることに気づいたのか、怪訝な様子の伊澄。
「僕たちが初めて会った日のことって覚えてる?」
勘違いならいいのだが……。
〈覚えてるよ。当たり前じゃん。すごいびっくりしたんだから〉
「じゃあさ、あのとき伊澄が歌ってた歌って、何だった?」
そう。伊澄が歌っていた鼻歌がきっかけで、僕たちは出会った。そこまではいい。しかし――。
〈ちょっと! やめてよ恥ずかしいから! ってか、そんなのも忘れたの? あの歌でしょ? ほら、あの…………あれ?〉
若年性アルツハイマーかよ! と笑いながら曲名を答えてくれることを期待していたのだが、伊澄も思い出せないでいるようだ。僕の悪い予感は当たっているのかもしれない。