君と僕のキセキ
「やっぱり、伊澄も思い出せないか」
〈〝も〟ってことは、キミも?〉
伊澄も僕と同様に、不安げな声になっていた。
「うん。僕たちの記憶が消えていってるかもしれない」
かもしれない、と付けたが、僕はほとんど確信していた。
〈記憶が……消えて? それってどういうこと?〉
「昔、どんな話してたか思い出せる?」
〈私の好きな漫画の話とか、キミが大学でやってることとか。色々話したよ〉
そこまでは、僕も思い出せるのだが……。
「具体的な内容は、どう?」
〈……待って、今思い出すから〉
長い沈黙が流れた。その静けさは、絶望に侵された僕たちの未来を暗示しているようだった。
「思い出せた?」
一分ほど経って、雰囲気の重さに耐え切れなくなった僕は口を開く。
〈ダメだ。忘れちゃってる。でもさ、それって昔の話だからってだけじゃないの?〉
「いや、昔っていっても一ヶ月くらいだし、内容まで全部忘れてるのはおかしいよ」
僕も、最近の会話についてはかなり思い出せるが、昔の話になるとぼんやりとして思い出せない部分が多くなる。
〈じゃあ、私たちは……〉
「うん。これは最悪の場合なんだけど、僕たちは最終的に、お互いに関する記憶がなくなってしまう」
常に起こりうる最悪の事態を想定するという癖が、僕にはあった。
〈話した内容だけじゃなくて、キミのことも、そのうち全部忘れちゃうってこと?〉
もともとが現代の技術では説明のつかない現象なのだ。いつかこの不思議な力は消えて、僕と伊澄の出会いは、全部なかったことになったとしてもおかしくない。むしろ、そうなることが正しいようにも思える。
「わからないけど、そうなる……かもしれない」
〈そっか〉