君と僕のキセキ
謎の力に導かれて、不思議な出会いをした僕たち。すべてを忘れてしまうには、お互いの大切な存在になりすぎていた。
そしてこのとき、何日か前に感じた引っ掛かりの正体にも気づいた。
「あと、なんか声が小さくなってるような気がするんだけど……」
石から聞こえる伊澄の声の音量が、前よりも小さくなっているのだ。声に混じるノイズも、若干増えているように感じる。
少しずつ変化していったのだろう。一日ずつだとわかりにくいが、もうすぐ二ヶ月が経とうとしている。僕たちの声は、確実に届きにくくなっていた。
追い打ちをかけるようで、言うのを躊躇ったけど、今のうちに話しておきたかった。
〈え、そんなこと……〉
「そっちはどう?」
〈……わからない〉
そう言った伊澄の声は、今までにないほどに弱々しかった。おそらく、彼女も僕と同じように、音の劣化に気付いたのだろう。
〈まあ……でも、そっちの方がいいんじゃない? それならほら、お互いが知られたくないことだって話せるし〉
きっと、石の向こう側で彼女は、無理やりに笑顔を作っている。そんな声だった。
「うん。そうだね」
伊澄の声がはらんだ切なさが痛々しくて、僕はそれだけ言うのがやっとだった。
〈じゃあ、そろそろ行くね。また明日〉
「また明日」
そう答えたが、明日には声が聞こえなくなってしまっていることも考えられる。
数秒後、石が光を失った。
伊澄にはたくさんの勇気をもらった。
彼女のおかげで、僕の運命は変わった。
彼女の笑い声。彼女に言われた言葉。楽しかった会話。そして、彼女という存在。何もかも全て、綺麗さっぱり忘れてしまう。
元々は出会うはずのなかった二人だ。いつか別れが来るのだろうとは思っていた。しかしこれは、あまりにも悲しい終わり方ではないか。
僕と伊澄は、他人に戻る。お互いがお互いを知らないまま、残りの人生を生きていく。
――僕たちは、何のために出会ったのだろうか。
小屋の外に出ると、北風が通り過ぎて行った。寒さが厳しくなっている。