君と僕のキセキ
――誰かにとられちゃうよ?
伊澄が言った通りになってしまう。いや、もともと僕のものなんかじゃないのは重々承知だけど……。
もしかして、すでに明李さんとあの男は……。最悪の事態を想定する僕の悪い癖は、今日も健在だ。
とにかく、その光景を見た僕が抱いたのは、危機感と焦燥感と劣等感で、明李さんへの片想いは難航を極めていた。
その週も、金曜日は明李さんと一緒に食堂で昼食をとった。
明李さんのバイト先のカフェのことや、僕が電気化学の中間試験で散々な点数をとってしまったことなどを話した。
明李さんがきつねうどんを食べ終わったタイミングで、僕は意を決して男のことを聞いてみた。
「朽名さん、この前、男の人と一緒にいましたよね」
「え? この前って?」
彼女は首を傾げて聞き返す。はぐらかしているわけではなさそうだ。
「たしか、昨日か一昨日おとといだったと思うんですけど……。暗い茶髪の爽やかな男の人です」
その出来事は昨日のことだとはっきり覚えていたが、明李さんと男との関係が気になっているという事実を隠すためにも、あえてぼかして伝える。
「ああ、昨日のことね。同じ授業で知り合った人だよ」
明李さんが一瞬だけ浮かべた困惑気味な表情を、僕は見逃さなかった。だてに片想いを一年半以上続けているわけではない。
あの男との間に、何かあるのだろうか。
「どうかしたんですか?」
なんとなく嫌な予感がして、僕は聞いてみた。
「え?」
「あ、いえ……。なんとなく、元気がないように見えたので……」
「時光くんって、人のことよく見てるんだね」
明李さんのその評価は、半分は正しかったが、半分は間違っていた。