誰にも届かぬ歌を
今日は先生を手伝っていて、いつもよりも帰りが遅くなった。空は暗く、強い雨が降っている。
「今日も家まで送ってくれてありがとうね!」
聞き覚えのある声が、雨音に混ざって僕の耳に入ってきた。…あれ?この声って…。
僕は顔を上げた。そこには、聖羅と見覚えのある男子が一緒に歩いている。その光景に、なぜか心臓が嫌な音を立てた。
「…明日も今日の調子で頑張ってね!」
「任せておいてよ…あ…」
僕は男子と目が合う。…こいつ、僕と同じクラスメイトの…?
「…こんにちは」
僕はぎこちない笑顔を浮かべた。男子は、僕に近づいてくるなり僕を突き飛ばした。雨で僕の体が濡れる。
「笑うな。気持ち悪いから」
――あんたは何も感情なんか出さなければ良い。
僕を見た聖羅が「分かる」と一言呟いた。僕は戸惑っていた。
「…鈴音ってさ。バカなの?私が鈴音を本気で好きになるわけが無いじゃん」
聖羅の言葉が僕の心に突き刺さる。僕は言葉を失っていた。
「そういうことだから。ばいばい」
この日、僕は完全に居場所を失ってしまった。
「……本当にバカだよね。僕が今まで見てきたものは全て幻だったんだね」
雨に打たれながら、僕は泣きじゃくった。家族にも愛されず、友達や彼女に裏切られ…僕は限界だったのだ。…もう耐えられない…どうしたら良いの?