誰にも届かぬ歌を



「…もう嫌だ…。生きていたくない…」

とある休日の昼、僕は1人で街を歩いていた。その時、「鈴音…何があったの?」と懐かしい少年の声が聞こえた。僕の親友、黒沢 優太(くろさわ ゆうた)が僕に微笑んでいる。

「…優太」

僕は優太の前で泣き崩れた。優太は微笑みながら、僕を抱いた。

「鈴音…久しぶり。元気にしてた?」

優太は、僕が中学生の時に遠くに転校したのだ。それから数年は優太に会えなかった。

「…優太、聞いてくれる?」

僕は、優太に全て…ではなく、彼女のことは伏せて全てを話した。優太は小学生の頃から僕の家庭環境について知ってくれている。優太の側にいるととても落ち着けるのだ。

「…なるほど。鈴音、良く耐えたね…俺がそれを終わらせてあげるから…だから、もう少しだけ耐えてくれる?もうすぐ、俺が通っている学校と交流会があるでしょ?あの日に、俺が鈴音を助けるから…」

優太は僕に微笑んだ。交流会は、今年初めて行われる。しかも、僕らの学年だけで。その学校に優太が通っていることをさっき知った。

「優太…ありがとう。ありがとう…」

「…鈴音、交流会の日にさ…俺と歌を歌わない?」

優太が唐突に言った。優太は、僕が歌うことが好きなのだと覚えてくれたのだ。

「歌いたい…」

僕は頬を赤く染めながらうなずいた。優太は「俺、数日は…昔、俺らが住んでいた家にいるから…おいでよ」と微笑みながら言った。

僕が通っている学校と優太が通っている学校は、交流会の準備と休日が重なり、連休になるのだ。

優太に会ったことで僕は再び、自分の居場所を見つけた。
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