銘柄
「それは多分、お姉さんに会いたかったからじゃねえかな?」
「……たぶん?」
「うん、たぶん…」
なにその、煮え切らない返事。
思わず白けた視線を向けると、慌てたように言葉の続きをその口から紡ぎ始めた。
「お姉さんって、今まで会った女と全然違うんだ」
「…どういうこと?」
「こう、なんつーか……"女"って感じがしない」
…、……は?
口をあんぐりと開けて視線を向ければ、どうやら困った風な顔で此方を見据える彼自身も言葉に詰まっているらしい。
「あのさあ、それって……私に女の色気が足らないってこと?」
「え!そういう訳じゃないと、思う……」
「(………)」
あーのー。
慌てた挙句にそんな返答をされると、真っ向から肯定されるのと大して変わらないんですけど…。
微妙な沈黙が私たちの間を通り抜けた。
でもこの空気を経由したことにより、胸中に燻ぶっていた先日の出来事について言及する勇気を得た私は。
「――…実はこの間、お兄さんのこと見たんだよね」
口火を、切ったんだ。