銘柄
「嘘だろ……」
「ほんと」
「なんで、」
「ほんとだってば」
私が帰る、って言ったあのとき。
思わず、といった具合で私の腕を掴んだお兄さん。
その手が未だ離れず、結果私が動くこともできなくて。
「…、……」
「(黙り込んじゃった…)」
「……この状態って、周りから見てどう捉えられるんだろう」
「、」
「あ、お巡《まわ》りさん」
ぽつりぽつり、的確に言葉を零していく私。
お巡りさんとか、実際どこにも居ないけれど。
どちらにせよ早く離して欲しい、という思いが募ってそう口にするに至ったんだ。
「ま、じで…!」
でもその攻撃は地味にお兄さんに効いたらしく、慌てふためいた彼は直ぐさま私の腕から手を離した。
「嘘だよ」
「は?」
「うーそ、お巡りさんとか居ないし」
漸く自由になった手足を動かして向かうのは、公園の入り口付近にある一本の老木。