銘柄
やっぱり、なんて肩を落としてみたところで問題が解決する筈もなく。
「……、戻ろう…」
はあ、と重たい溜め息に交えてそんな独白を零した。
私だって女の端くれだ。
こんな酷い顔を見られることを自覚しながら公園に向かうほど、神経が図太い訳でも何でもない。
くるりと身体を反転させて家に向かって歩を進める中で考えることは、例のお兄さんのこと。
化粧を軽く施したら公園に向かおうと考えていたから、直ぐに脳内を彼が占めることに関して何の疑いも持っていなかった。
――…そう、何にも気にしていなかったんだ。私は。
"彼"が"お兄さん"として公園に姿を現してくれれば、それだけで満ち足りていたから。
あの、女を侮辱したような眼を目の当りにした筈なのに。
それを見て、ずきんと痛んだ胸は正直以外の何物でもなかったのに。
毎週あの公園に向かって彼に会うことを"嬉しい"と感じていた私が、彼が心から嫌悪し時に愛する"女"に近付いていっていることを。
"私だけは違う"なんて、彼の言葉に胸を高鳴らせてしまった後ではもう遅い。
結局この日、少し遅れて公園に着いた私が彼に逢うことは無かった。