銘柄
「……凄い熱」
「……、」
「これはちょっと……どうしよう」
支えることは出来ても、女の私の力量ではこの場に留まるのが精一杯だ。
彼の様子は明らかに苦しげなもので、まさかこのまま放っておく訳にもいかない。
「(…、致し方あるまい…)」
意図せず武士のような言葉で胸中に呟きを落とした私は、徐に自身のポケットに眠るスマホへと腕を伸ばした。
「……、…」
"あんだよ"
「あのー…、お願いが…御座いまして」
"はあ?いま忙しいから無理、パス"
今だ?お前は何時だって"忙しい"って断るだろうが。
勿論忙しいときも、忙しくないときも。大抵は後者な訳だけれど。
だから、
「ほんとお願い兄貴!友だちが倒れちゃって死にそうなの」
"……友だち?"
「そ、そう!すっごい美人さんでね、兄貴にも紹介したいと思っ――」
"待ってろ2分で行く"
多少の罪悪感は拭えなかったけれど、助かるならそれに越したことはないからさ…。