銘柄
「とにかく、夕方また来るからそれまでコイツ看とけ」
「え、……もしかして仕事だった?」
「もしかしてだァ?俺はいつでもバリバリのビジネスマンだろーが」
思わず死んだ魚のような眼で兄貴を見つめる私。
そんな此方の視線に気付いているのかいないのか、
「あばよ」
なんて悪役染みた台詞と共に奴はドアの向こうへと姿を消した。
「(珍しく仕事だったんだ……)」
就職してからも度々実家に戻ってくるから、てっきり暇を持て余しているんだと。
と、そのとき。
「はっ、」
「お兄さん…!ごめん、なんか飲み物とか持ってくるね!」
苦しげに吐き出された吐息に肩を揺らした私は、慌てて腰を浮かせるとその場から去ろうとした。
の、だけれど。
「――待って」
「ッ」
「ありが、と…」
パシリ、瞬時に掴まれた腕と共に急激に上がる体温。
耳元で零された低い呟きと吐息が引き金となり、私の心臓は一気に早鐘を打ち始めたんだ。