銘柄
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「(……凄い汗)」
余っ程高い熱を今まで我慢していたんじゃないだろうか。
思わず眉根を寄せて苦しげな声を洩らす彼を見つめていれば、その脇に差し込んでおいた体温計が高音を鳴らしたことに気付く。
「……、…ええ!」
その電子的な数字が示す体温の高さに、意図せず驚きの声を上げてしまった。
その傍ら、尚も辛酸の表情を浮かべる彼にハッとして振り返った私は。
「お兄さん、」
「………」
「拭いたほうが良い……よね」
途中まで言葉を吐き出し、語末では聞くまでもなくそうだということを認識してタオルを湯桶から取り出した。
「(……、いざ…!)」
そして自らを叱咤するかの如くそんな呟きを胸中に零し、目の前で盗汗をかく彼と改めて向き直る。
でも、何度も確認するようだけれど。
私は人並みでしか異性と接したことがない訳で、こんな――
こんな、男のひとの身体に自分から触れるなんて初めてのことな訳で…。