銘柄
露になった彼の上半身。
その背中の右肩部分に走る、黒々とした龍の文様。
ひとつでは不完全に見えるそれは、もしかすると何かの"片割"を意味しているのかもしれない。
初めて目にした私ですらそんな予測を立ててしまうほどに。
「――なに、これ……」
意図せずに呟きを発してしまった自らの口を、ハッとして両手で押さえ込む。
そんなときに思い出したのは、何時かの彼が私に言った言葉だった。
"お姉さんはさ、道外れた奴ってどう思う?"
"でも、世間一般ではそうもいかないだろ"
"なに、お兄さんなんかあんの?"
"――…いや、別に"
―――――――――――…
夕刻、珍しく時間を遵守し戻ってきた兄貴の車で――、
「お前アイツまで狙ってたのかよ」
「……まさか。そんな命知らずな真似しませんよ、でも」
「妹さん、一筋縄じゃ行かないっすね」
そんな会話が交わされていたことを、後にも先にも私が聞くことはなかった。