銘柄
/week.8
――この日の、今にも泣き出しそうな空は何らかの意味を持っていたのだろうか。
「おい――、ちょっと付き合えや」
「なにその悪役染みた台詞……。てかあたし今日はちょっと、」
「あの男だろ?」
"あの男"、それが指し示すものは。
「………、」
「今日は来れないって言ってたぞ」
「――…そう」
"お兄さん"だろうと容易に見当がついた。
そしてその言葉に対し応酬する気力も無ければ、更々そんなつもりもなくて。
「じゃあ良いよ、兄貴」
このときからもう既に、私が公園に通う目的は別のものに成り代わっていたんだ。
私自身が気付かない内に。
―――――――――――…
バタン!と扉を豪快に閉めた長身の男に目が飛び出そうになる。
その様子を運転席から凝視していた私は、慌ててキーのロックボタンで施錠するのと同時に抗議の声を上げた。
「――ちょっと兄貴!もうちょっと丁寧に扱ってよ、新車なんだから!」
「はあ?つーか何でお前が先に新車買うんだよ」
「そういうの言い掛かりって言うんだよ!!」