銘柄
見失いそうになるその背中にそう呼び掛けても、一向に止まる気配は――
……って、あれ?
「(止まってる……)」
私が呼び掛けたところで止まってくれるなんて、予想もつかなかった。
兄貴、ちょっとは良いところあるじゃん。
「なによ、ちょっと見直した――」
やっとの思いで追いついた男の肩に手を添えてそう言い掛ければ、直ぐに自らの思考の誤りに気付く。
「うわーうわー!私ファンだったんです!握手してくれませんか…!?」
「マジで?俺も嬉しいわ」
「あ、ずるーい!あたしも!」
前 言 撤 回 。
数多の女の子に囲まれてでれでれと破顔させる奴は、私の声どころか存在すらも忘れているだろう。
思わず死んだ魚のような眼でもう兄貴とも呼びたくない男を見上げていたが、これでは埒が明かないと踵を返した。
その瞬間、
――ブォンブォンブォン!
耳を劈くような爆音が界隈に鳴り響き、思わず両手で耳を押さえ込もうとした。
けれど――、
「っ、なに!?」
「いいから来いよ」