銘柄
第3章 : 齟齬
/week.9
園の隅に設置されたベンチに腰掛け、何時ものように彼女が現れる瞬間を待っていた。
まだ少し暑さの残る空気に自らの吐息を混じて、何気ない動作で煙草の箱へと手を伸ばし我に返る。
「――…来ない、か」
あの瞬間の彼女の瞳が恐くて。
拒絶とも取れる具合に目を見開いていたあの子は、俺のあの姿を見てどんな感情を抱いたのか。
「(俺はシスコンじゃねぇから、って)」
そういう優しさもシスコンの一種に入るんじゃないすか?
知らなかったあの子に"本当の俺"を見せることで、距離を隔てようとしたのなら。
「……やっぱ、一筋縄じゃいかねぇって」
俺の本心を知ってこうするなら、やっぱあんた優しいよ、新さん。
――――――――――――…
「あれ?今日お休みじゃなかった?」
「父が体調崩しちゃって……ごめんなさい、大事な仕事も有るのに」
「いいのよー!あたしなんかは――ちゃんのほうが嬉しいんだから」
配達先で私が何時も通りの笑みを浮かべていた裏側で、お兄さんがどんな顔付きでその場に居たのかなんて知らなかった。
斯く言う私も、出来る限りお兄さんについて考えるのは控えていた訳で――、
「(どんな顔して接したらいい?)」
そんな風にすら思っていたから、正直父さんが風邪を引いたことで安堵の思いは拭えなかった。