銘柄
/week.10
「……行ってきます」
誰も居ない家にぼそりとそう呟き、冴えない顔付きもそのままに何時もの公園へと歩を進めていく。
「(……)」
どんな顔して接したら、とか。
そんなことは結局私の気持ち次第だ。
お兄さんはまさか私があの場に居たことを知る筈もないし、私が"彼の姿"を見たことにだって気付いていないだろう。
だからつまり、畢竟するに全ては私が見なかったことにすれば良いだけの話。
でも、何故か。
そんな些細で簡単な筈のことを、出来る気が全くしなかった。
「(――…着いちゃった)」
こういう感情を抱えているときに限って、家から此処までの距離が途轍もなく短く感じてしまう。
躊躇いながらも園内に足を踏み入れていくと、直ぐにその場の空気が何時ものそれとは異なっていることに気付く。
「――…、」
お兄さんが、居なかった。