銘柄
「…、…未成年じゃないよ」
「え?」
「未成年じゃない。今日でハタチ」
別に言わなくてもいいことだった。
況《ま》してや初対面の男に個人情報を教えてしまうなんて、このときの自分の考えが理解できない。
だけれど、
「へー、そうなんだ」
「……」
「おめでとう、おねーさん」
"これ"を切っ掛けに、この男と私の曖昧な関係がスタートしたように思えた。
「じゃあさ、お姉さんは煙草の吸い方知らないんでしょ?」
「……知ってる、」
「はい強がらなーい、強がらない」
にやりと濃い笑みを刻んだ男とは対照的に、図星を指された私の眉間には皺が刻まれる。
ムッとしたのも束の間で、するりと抜き取られた箱は既に男の手中にあった。
「俺が、教えてあげる」
「――…、え…?」
「煙草の吸い方」
そう言うと男は箱の中から一本取り出して、そして箱は私に戻してきた。