銘柄





「な、ちょっと…!お兄さん、」

「おー、お兄さんって何かいいね」

「そうじゃなくて!」


慌てて手を伸ばす私だったけれど、長身を活かしてそれを遠ざける男は飄々としていて。


仕方なしに早々と諦め、細く息を吐き出した。






「でも、お姉さんさ」

「……」

「禁煙禁煙、なんて言われてるのによく煙草吸おうと思ったね?」



素朴な疑問、なのだろうか。

小首を傾げて思案するような表情の男に、一瞬だけ躊躇ったけれど私は口を開いていく。




「ただの好奇心だよ」

「……ふーん」

「何事も経験でしょ、ヘビースモーカーにはなりたくないけど気になるの」


これは私の本音だ。

気になるものは気になる。今日やっと試しても咎められない歳になったのだから。







「今日、帰ったらお酒も飲んでみる」

「飲んだことねーの?」

「未成年のうちは駄目、って思ってたから」


高校を卒業して直ぐの会で、他の皆はお酒を嗜んでいたけれど。

こんなポリシーを掲げる私は勿論、試してみようとすら思わなかった。






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