銘柄
そしてぐるりと冷蔵庫を見渡して、ポツリと一言。
「これはお前……大変な事態じゃねぇか」
思いの外深刻そうな表情を浮かべてはそう洩らす始末で。
だからさっきからそう言っているのに。ゲッソリと俺様男を見上げながら溜め息を吐く私を、ギラギラと見下ろしたやつは更にこう口にした。
「肉じゃがから肉が消えたら?」
「………」
「ただのじゃが。じゃがいもになっちまう」
「……、……うん」
そう、かもしれないけれど。それがどうした。
相変わらずな発言をかます兄貴は日頃会社でどんな行動をしているのだろうか。こんな男がちゃんと社会人として扱われているなんて、世も末じゃないだろうか。
「で、」
コホン、と。咳払いでこの男の意識を引っ張り戻した私は、充分に気合いを込めて兄貴を指さすと。
「肉。買ってこい」
「…………」
日頃この男に言われている言葉の仕返しだとでも言う風に、語気を強めて台詞を決めてやった。
そんな私を暫く無言で見下ろす兄貴だったけれど。
「しょうがねぇ。これで失敗しやがったら承知しねぇからな」
料理に関しては、さすがに終始上から目線でいく訳にはいかないと悟ったらしく。
乱暴な動作で自分の車のキーを指に通すと、最後に無遠慮なほど私にガンを付けて出ていったのだった。