銘柄
そんな俺様男を見送ってから、ふうと一息吐き出した私はソファーに向かって歩を進める。
先ほどまでは兄貴が居間を占領していたから、この好機を逃す訳にはいかないし。
「……、はあ」
ポスン、と。沈み込むように腰をソファーに預け、ずっと点きっぱなしだったテレビ画面へと視線の先を違えてみる。
日頃から報道番組でよく見掛けるニュースキャスターが、ハッキリとした声音で言葉をおとしていく様をジっと見つめた。
お兄さんと会わなくなって、今日で丁度二ヶ月らしい。
あれから私は例の公園に行くことをやめた。と言うか、恐くて行けそうにもなかった。
またお兄さんと会ってしまったら、どうしたら良いのか分からない。
接し方が分からないって気持ちも否定できない。
でも、それよりも私の心情を大きく占めるのは他でもない―――
「(……また会ったら、)」
絶対。絶対に、私はお兄さんを諦めきれなくなってしまう。
もう顔を見たら駄目だと思った。
あの日観衆に紛れる私をお兄さんが見付けていたのなら、きっと呆れられた。
きっと括られた、と思った。何時だったか彼が口にしていた、
"俺さ、一番好きなものも一番嫌いなものも 《女の子》なんだよね"
"すっげー可愛く見えるときもあれば、視界にも入れたくないときもある"
その、彼なりの「女」という定義に私自身が飛び込んでしまった気がしたんだ。