銘柄
必然のようにこの部屋中を沈黙に支配されて。
ハッとした私は、それまで頬を光っていた滴を見られまいと二人に背を向けて目元を擦る。
中々とまってくれない涙。躍起になった私は更に強くこすろうと、服の袖を宛がうけれど。
「赤くなってる」
前触れなく掴まれた腕に、呆然とした表情を晒すことしかできなくて。
その久々に聞く声音が、痺れるくらい此方の耳朶をじわり撫ぜてくる。
お兄さんの体温が、ゆっくりと腕先から伝わってくる。
そんな些細で繊細な動作が、どうしようもなく。私の心を根幹からぐらぐらと揺らしてくる。
「………お姉さん、俺」
尚も状況を呑みこめていない私を見下ろしたままポツリ、と。
今にも消えてしまいそうな、柔すぎる声音でお兄さんが呟きを落とそうとしたけれど。
「――――兄貴、余計なことしないでよ」
その瞬間には既に兄貴を睨め付けていた私は、尚もあふれ出てくる涙もそのままに乱雑な言葉を並べていく。
兄貴がお兄さんを此処に連れてきたことは簡潔明瞭。
久々に彼の顔を見れたことが嬉しい。でも、望まない再会を他人の助勢を得て成されたことが苛立たしい。
「別に頼んでない!大きなお世話なんだよっ、」
混乱ばかりが胸中を犇めき合って、言いたくもない言葉ばかりが次々に口を衝いてはこぼれおちる。