銘柄
叫ぶようにそう口にし、兎に角この場から離れようと踵を返すけれど。
――――ギュッ
「………おにーさん、」
「……」
「離してよ……」
公園でも同じような応酬をした記憶が、ちらりと私の脳裏を掠めた。
逃げ出したい私と、それを許さないとでも言うように腕を離してくれないお兄さん。
痛いほど力が込められている訳ではないけれど、一本の腕を振ったところで離れるほど微力ではないそれ。
しかしながら、反対側の腕をお兄さんの手に添わせて離れさせることもできない。
私から彼に触れる勇気は、ないから。
「………なかったことに、させてよ………」
だから非力な私は、卑劣な言葉で彼に解放を嗾《けしか》けることしかできないんだ。
「俺が新さんに、頼んだんだ」
「! ………なんでっ、」
「会いたかったから」
何の躊躇いも含まれていないその言葉が、ポッカリと空いた私の胸をじわり温めていく。
バッサリと一蹴された疑問を口にしていたことすらも抜け落ちてしまうほど、
「なに………、何て?」
「会いたかった。お姉さんに」
目を見開き久方振りに彼を見上げる私にとって、これ以上ないくらいの衝撃だった。