銘柄





伏し目がちに言葉を零し、空になってしまったビニール袋をくしゃりと握り締める。

そんな私の様子を見た彼はくすり、笑みを浮かべていたのだけれど。



そのことにすら気付けなかった私はと言うと、彼が何故唇で弧を描いていたのか知らずにいた。






「お姉さんさ」

「えっ、ちょっと!なに?」

「逃げないでよ」


パシリ、掴まれた腕は勿論私のもので。

思わず反射的に顔を上げると、眼前に迫る端整な顔立ちに息が詰まる。




「(なに、なになに…!)」

人並みしか異性と接したことがない私は、普通に生活する中でこんなに間近に男の顔を見ることがない。



だからこんな至近距離で平然と居れる筈もなくて、どきまぎと視線を泳がせるばかり。

そんな中でも更に顔を寄せてくる男はと言うと、



「……お姉さん、可愛いよね」


チャラ男確定な発言を投下した。







「ちょっと待って!違う!離れてお願い離れて…!」


ゆえに、私の頬は稀に見るほどの赤みを帯びて最早噴火寸前となった。





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