銘柄
「…………でも、」
嗚呼、ほら。今の私は、お兄さんからそれ以上の言葉を貰えるって期待してる。
そんな訳ないのに。今でも鮮明に思い出せる―――彼が女の子と腕を組んで歩く姿が、脳裏に浮上しては私の胸を締め付けるって分かっているのに。
「……会いたい、だけじゃ、駄目なんだよ……」
私の気持ちだけじゃ、きっと乗り切れないから。
何時だったか、私に向かって辛辣な言葉を吐き出した彼女たちを思い出す。
きっとあの子たちも同じ筈だ。こうしてお兄さんが期待を含ませるような、煮え切らない言葉をおとす度に胸を高鳴らせてしまう。
「私はもう、お兄さんに会いたくないって言ったじゃん」
だって辛い。期待してしまうのに、それをずっと直隠《ひたかく》す。
「お兄さんが誰かと歩く姿を見たら、きっともう堪えられないし」
私の気持ちの比重ばかりが大きく膨らんでしまって、お兄さんに煙たがられるに決まってる。
「それに繁華街で見たお兄さんが別の世界のヒトみたいで、私なんかが傍にいちゃ駄目だって」
あの日を忘れることはきっと、一生ないと思う。バイクに乗って風を切る彼は一番輝いて見えた。