銘柄
ハジマリが今日。それって、それまでの私たちをリセットするって意味なのだろうか。
先ほど思いの丈を打ち明けた私は、次に口にするべき言葉を選ぶあまり俯いてしまう。
――――と、
「顔上げてよ、葵」
「ッ」
ハスキーな声音に滲ませるようにそう零した彼を追うように、視線を持ち上げた。
初めて名前で呼ばれるなんて、変なの。
擽られるようで切なくて、それでいて有り余るほどの嬉しさが募っていって。
慌てだす唇を引き結んだままお兄さんを見つめていれば、「俺のことも呼んで?」なんて。
「……和也……くん?」
徐に声音にして改めて、怒涛のように押し寄せてくる恥ずかしさ。
頬を真っ赤にして両手で包みこんでいたけれど、その行動でさえ彼に腕を掴まれたことで阻まれてしまう。
「聞いて欲しいんだけど」
「………、はい……」
「俺、」
「葵のことが好きだ。ゼッタイ」
しかしながらそんな爆弾発言を受けた私の頬が殊更《ことさら》茹でダコ状態になってしまったのは、言うまでもない。
「葵は?」
「えっ」
「俺のこと好き?」
「……、うん……」
「ちゃんと言って欲しいんだけど」
クスリと微笑を混ぜて凄艶とも取れる笑みを浮かべた彼はきっと、確信犯なのだと思う。
「和也くんが、好き」
その直後におとされた唇からは少し、涙の味がした。
―END―