銘柄
眉根を寄せて顔を横に振る。
あれだ。煙草を買うっていう目的に集中し過ぎて、そこまで気に掛ける余裕がなかったんだ。
「……今度から気を付けます」
若干口を尖らせてそう洩らす私を見て、彼がプッと小さく吹き出したものだから目を丸くした。
「え、ちょ、なんで笑うの!?」
「いやいや、だってさー……ブッ、」
「汚…!ちょっと、お兄さんほんと寄らないでってば――」
「いーやーだ」
本気で腕を解こうとすれば、急に悪戯な表情を浮かべてそう零すから。
「ちょっとその顔……苦手だ、」
思わず顔を背けて告げれば、意表を突かれたような表情で此方を見る男が視界の端に映り込む。
初めて逢ったのは、何の変哲もない近所の公園だった。
黒っぽいリクルートスーツを身に纏った男の第一印象は、就活中のチャラ男。
「お姉さん、名前教えてよ」
「……お兄さんが教えてくれるなら良いよ」
「えー、それは秘密」
「じゃあ、私もヒミツ」
耳に残るハスキーボイスが、いつまでも執拗なほどに私を追い詰める。
思えば彼は、初めから何の抵抗もなく私に触れていた。