あかしや橋のあやかし商店街
 真司の部屋で、ふたりは掛け軸と捕まえた犬が描かれている紙を床に置いて、向かい合うように座っていた。

「あの……これから、どうするんですか?」
「なに、見ていればわかるさ」

 菖蒲は部屋に戻ってくると、箱に入った掛け軸を再び丁寧に開きそっと床に置いた。
 そして、白い紙を犬が描かれている面を下にして掛け軸の上に重ねる。すると、その途端、掛け軸がカサカサと動きだした。
 真司は唾を飲み込み、動く掛け軸を緊張した面持ちで見つめていた。
 掛け軸の動きは次第に小さくなり、菖蒲は静かになるのを確認すると、紙をそっと掛け軸から離した。

「あ!!」

 真司の驚きの声に、菖蒲はクスリと笑う。
 真司の知っている掛け軸には女の子だけが描かれているはずなのに、今は、女の子のそばで柴犬が一緒になって川遊びをしていた。その柴犬は確かに先程の紙に描かれていた犬だった。
 そして、白い紙の方はというと――なにも描かれていない、ただの白紙に戻っていた。まるで、手品を見ている気分だった。

「やはり、本来あるべき姿が一番微笑ましくて、とてもよいのぉ」

 と、そのとき。掛け軸の中の女の子が正面を向き、真司と菖蒲に向かってお辞儀をした。

「えっ!?」

 真司は目を擦り、今一度掛け軸を見る。しかし、今度は掛け軸にはなんの変化も現れなかった。
 菖蒲は、そんな真司を見て、再び笑みを浮かべる。

「お前さんが先程見たもの、幻でもなんでもあらへんよ。この子はね、お前さんに礼を言ったのじゃ。ありがとうございます、ってな」

 真司は少し恥ずかし気に頬を掻いた。そして、掛け軸の願いを叶えることができて嬉しく思い、自然と笑みが出たのだった。
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